CEM NICE Futureイニシアティブが発行した“クリーンエネルギーシステムのための柔軟な原子力エネルギー”レポートに対するGIFのスタンス


 2020年9月15日、クリーンエネルギー閣僚級会合(CEM)のイニシアティブNICE Future(原子力イノベーション:クリーンエネルギーの将来)は、技術報告書「クリーンエネルギーシステムのための柔軟な原子力エネルギー」を発表しました。
 全19章から成る本報告書は、原子力エネルギーの柔軟な利用方法とその価値を共有することを目的としており、研究機関、企業・産業、国際機関がそれぞれの立場で、現在及び将来の原子力発電がもつ柔軟性に関する役割を提示しています。
 GIFも、この内の第13章「第4世代原子力システムに関する国際フォーラム:次世代原子力システムの導入」を寄稿し、第4世代炉のもつ柔軟性に関する利点を検討する取組みや、GIFが開発協力を進める6種類の炉システムのもつ柔軟性について概説しました。
 なお、第6章「経済産業省 資源エネルギー庁、日本原子力研究開発機構:日本の原子力イノベーションへの取り組み」、及び第9章「東京工業大学:低炭素社会における原子力の将来に関するMIT-Japan共同研究からわかる柔軟性に関する知見」においても、日本の知見が示されております。

 本報告書は、米加日英からなる共同主導国の見解、NGO(ClearPath及びEnergy for Humanity)からの見解に始まり、及び第1章:序論、第2章:目的と構成、第3章:電力システムの柔軟性に関する背景に続き、第4~17章:寄稿した各機関の見解、第18章:結論、第19章:将来展望に関する補足見解という構成になっています。

 共同主導国は、寄稿機関による知見を以下に示す第18章のように結論づけました。GIFは、本結論に賛同するとともに、CEM NICE Futureイニシアティブの趣旨に賛同し、今後もCross-sectoral partnersとして活動していきます。
 CEM12の開催に向け、第4世代原子力システムの柔軟性に関するGIFメッセージを発信英文ブックレット)しました。
 (CEM NICE future ministerial-level booklet向け)


第18章:結論(全文和訳)
 NICE Futureイニシアチブと柔軟な原子力キャンペーンの主目的は、原子力のエネルギー供給システムとしての柔軟性に関する国際的な知見・経験を蓄積し、この経験をより広いコミュニティと共有することである。コラボレーションを通じて、さまざまな低排出エネルギー源の大きな可能性を現実のものにすることができる。キャンペーンはまた、原子力エネルギーの柔軟性を、広範に使用していくことに対する障壁を克服していくことを呼びかけている。このレポート全体を通して、研究機関、エネルギー業界、及び国際機関は、柔軟な原子力エネルギーに関連する経験と研究結果を共有できた。この一連の作業から、引き出された結論は以下のようになる。

 原子力は再生可能エネルギーと調和して機能し、クリーンなエネルギー源の使用を拡大することができる。電力システムにおける変動性再生可能エネルギー(VRE)の割合が増加するにつれて、原子力エネルギーの柔軟性は、風力及び太陽光エネルギーのようなVRE生成において生じる気象由来の影響を補完する方法としてしばしば言及される。本レポートの各章では、柔軟な特性をもつ原子力エネルギーが、電力システムにおける風力と太陽光エネルギーの更なる活用に寄与できることを示した。原子力エネルギーはまた、他のクリーンエネルギー源が利用できない、あるいは季節的にしか利用できない可能性がある地域で、水力発電と同様に、信頼できるクリーンエネルギー源となりえる。さらに、運輸や非電力産業界などの他のエネルギー部門においては、原子力によって生成された水素を使用することで温室効果ガス排出量を削減できる。このレポートに示されているように、原子力の導入を選択した国は、他のクリーンエネルギー源の活用可能性をも高めることができている。

 今日、原子力エネルギーの柔軟な運用は既に行われており、イノベーションによって、この原子力の柔軟性をより多くの形態で使用していくことができる。これまでの運転経験が示すように、一部の原子力発電所は、季節的なあるいは日々の需要の変動に対応するために柔軟に運転することができ、実際に運転している。多くの研究プログラムは、クリーンなエネルギーの使用機会をより増加するために、原子力が運用方法と非電力エネルギー生産の両方の分野において、柔軟性を提供する機会を検討している。現在稼働中の原子力発電所と今後建設される原子力発電所の両者が、原子力の将来の柔軟性において、果たすべき大きな役割を担っている。

 複数のエネルギー生産プロセスを、原子力システムに接続する統合エネルギーシステムは、原子力の柔軟性とシステム価値向上の観点から、新しい機会を作り出す。原子力は、他の多くのエネルギー源と比較して、これまで資本集約的な投資であった。また、原子力システムは、稼働期間を通じて非常に高い設備利用率で信頼性が高く、手頃な価格で、再生可能エネルギー同様の低排出エネルギーを生産することにより、プラント所有者と社会の両方により多くの価値を提供してきた。商用原子炉は主に発電用途で使用されてきたが、それ以外にも、原子炉からの熱エネルギーと電気エネルギーの両者を利用できる実証済みの革新的な応用利用手段も数多く存在している。原子力システムが生成した熱及び電気エネルギーは、社会にとって価値のある一次又は二次製品を生産するために使用できる。統合エネルギーシステムは、非電力製品の生産を、原子力システムに結合したシステムの中で行うことにより、全体的な運用効率を高め、原子力が電力だけでなく複数のエネルギー需要に対応する機会を増やすことを目指している。これらの技術は、原子力をより効果的かつ効率的に活用していく可能性を秘めているため、収益源と関連する設備投資を最大化することができる。

 原子力システムは、確立された国際的な知識・経験に基づいて、安全かつ柔軟に運用することができる。柔軟な原子力運用のより広範な適用を促進するために、原子力コミュニティは、研究機関と業界の経験に基づいて柔軟な運用が安全であることの実証を推進することができる。これまでの経験と柔軟な原子力システムに関する今後の研究は、原子力発電所の柔軟な運転をサポートするための国家レベルのライセンスフレームワークに変換することができる。国際機関や各国政府は、すでにこのように原子力システムを運用している国々との協力を通じて、原子力システムの柔軟な運用に関する安全性を実証し、規制当局に伝えることができる。

 この研究は柔軟性に関する技術のギャップを埋めているが、既存の研究、開発、実証プログラム、及びエネルギー計画プロセスに原子力の柔軟性をさらに組み込んでいくためには、今後も多くの活動を行う必要がある。本レポートに寄稿している組織は、原子力安全、システム効率・経済性、信頼性、持続可能性、及び核拡散抵抗のトピックに関し、世界的に著名な研究に従事してきた。柔軟性は原子力システムにとってますます価値のある資産になりつつあるため、幅広いエネルギー需要に対応し、社会に利益をもたらすために、これらのシステムにさらなる柔軟性を確保し、さらに多くの価値を生み出すことができるであろう。材料科学、原子炉物理学、及び熱流体力学といった分野は、原子力の柔軟性の概念を研究に組み込むことでより多くの価値を生み出すであろう。同じことが、エネルギー計画、モデリング、及び分析の分野にも当てはまる。

 費用対効果の高いエネルギー貯蔵技術は、すべての発電技術、特に原子力発電技術に利益をもたらす。エネルギー供給源の出力を低下させ、グリッド全体のバランスをとるために、それぞれのエネルギー供給源は、複数のオプションを所持している。地熱発電では出力を徐々に低下させる(ランプダウン)ことができ、太陽光発電では電子制御システムによって低下させることができ、原子力発電では炉心熱出力を低下させることができる。原子力システムのように資本コストが高く運用コストが低い技術の場合、エネルギー貯蔵を行うことにより、発電能力のすべてを利用し、原子力システムに結合された貯蔵システムを柔軟性のソースとして使用することが有効である。発電設備をフル稼働することで、均等化発電原価が下がり、エネルギーシステムの効率も向上する。エネルギーサービスのタイムスケールが異なれば、必要な貯蔵技術も異なる。電気化学式電池は数秒から数時間のオーダーで経済的であり、熱エネルギー貯蔵は数時間から数日のオーダーで経済的となり、化学貯蔵(水素など)は数日から数ヶ月のオーダーで経済的である可能性が高い。もちろん、すべてのエネルギー貯蔵システムは、エネルギー生成技術がより優れた柔軟性と効率を発揮する機会を提供している。NICE Futureイニシアチブは、エネルギー貯蔵がすべての発電技術に利益をもたらすことを認識し、エネルギー貯蔵に関して他のCEMワークストリームと提携することを期待している。

 適正な柔軟性は、使用しているエネルギーシステム、国情、又は経済システムに依存する。そのため、最適な柔軟性は、各々のシステムや国情に基づき再検討される必要がある。原子力の柔軟性に関する分析結果は、国情や地域性に合わせて調整する必要がある。このレポートに要約されている内容は、多くの国や国際機関からの視点と経験が含まれている。使用している技術、経済システム、及びパブリックアクセプタンスの観点から、各国は国情に応じた価値観や懸念因子を所有している。したがって、世界中のどこでも適用可能な普遍的な柔軟性の価値評価手法は存在しない。しかしながら、これらの分析から得られる教訓・知見は、どのようなエネルギーシステムにも適用又は転用することができる。このレポートは、各国が自国の経済システムにおいて原子力の柔軟性がもたらす価値を理解するために、分析結果、方法論、及び経験を提供している。他の人たちがクリーンエネルギーへの移行を検討する際に使用できる、幅広い技術的及び経済的知識を提供している。

(第5~17章の寄稿機関:カナダ原子力研究所、アイダホ国立研究所、日本/経済産業省 資源エネルギー庁、JAEA、MIT、米国国立再生可能エネルギー研究所、東京工業大学、英国原子力イノベーション研究室、フランス電力、Exelon、GIF、Energy for Humanity(NGO)、IAEA、IEA、OECD/NEA。第19章の寄稿機関:ヨルダン原子力委員会、ケニア原子力エネルギー庁、日本原子力産業協会、カナダ原子力協会、原子力エネルギー協会(NEI)、世界原子力協会(WNA)、英国原子力産業協会)

 報告書本文等は、下記サイトから閲覧可能です。

  • NICE Future イニシアチブとは
     2018年コペンハーゲンで開催された第9回クリーンエネルギー大臣会合(CEM)においてカナダ、日本、アメリカのリーダーシップのもと発足しました。 イニシアチブの活動はこちらまたは アメリカエネルギー省(U.S. DOE Office of Nuclear Energy)からご覧頂けます。
     GIFは、NICE Future イニシアチブの趣旨に賛同し、その活動にcross-sectoral partnersとして参画しています。