GIF-IAEA-NEA合同ウェビナー
解説(最終報):脱炭素社会における原子力エネルギーの役割
- Role of Nuclear Energy in Reducing CO2 Emissions -
2022年4月19日 21:30(日本時間)
今回のGIF-IAEA-NEA合同ウェビナーでは、脱炭素社会における原子力エネルギーの役割というテーマで、IAEAのWei HUANGさんから「Nuclear Energy, an Important Part of the Solution to a Net Zero World」というタイトルで、NEAのDiane CAMERONさんから「Meeting Climate Change Targets: The Role of Nuclear Energy」、GIF 非電力利用に関するタスクフォース(GIF NEaNH-TF)の議長でありINL所属のShannon Bragg-Sittonさんから「Accelerating Economy-Wide Decarbonization via Nuclear Energy」というタイトルで講演いただきました。
なお、以下の内容紹介は、その背景、理由を理解するための日本GIF委員による解説/解釈が含まれたものです。
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Wei HUANGさん(IAEA)は、講演の中で、下記のように、数多くのファクトを紹介するとともに、世界情勢に触れ、温室効果ガスの排出量削減にむけ、原子力エネルギーのもつ潜在的な貢献度と期待を紹介くださいました。
- 世界の温室効果ガスの排出量を45%削減するためには、低炭素電力による電力部門の脱炭素化と、それを前提とした他のセクターでの電化が基本路線となる。その中で、エネルギー集約率の高い原子力エネルギーは、単位出力あたりのライフサイクル温室効果ガス排出量、単位出力あたりの重要な鉱物の消費量と必要土地面積等の観点から、潜在的貢献度の高いエネルギー源である(1971〜2018年までの間に、原子力は74Gt-CO2の排出量を削減)。また、原子力発電の電源比率が高い国においては、電気出力を市場ニーズ等に合わせフレキシブルに調整するような運転も実施されている。
- クリーンな熱源や、水素やその他の合成燃料のような代替エネルギーキャリアによって、冷暖房分野や運輸分野などの脱炭素が進みにくいセクターの脱炭素化を加速することも重要である。稼働中の原子力発電所の約15%が地域暖房、海水淡水化、工業プロセス熱をサポートするために、発電と同時に蒸気や温水の形で熱を供給しており、中国をはじめとするいくつかの国では、原子力による暖房プログラムを拡大している。
Diane CAMERONさん(NEA)は、講演の中で、NEAの実施した温室効果ガスの排出量の削減量予測結果に基づき、原子力エネルギーの積極的活用シナリオを紹介するとともに、その効果を下記のように、紹介くださいました。非常に大胆な提案でありますが、同時に1.5℃シナリオの達成を実現化するために、必要なシナリオであり、原子力エネルギーのもつ潜在的な可能性を発揮するシナリオです。
- 気候変動課題の大きさ、困難さを過小評価すべきではなく(地球の炭素予算は500Gt-CO2にも関わらず年間40Gt-CO2を排出)、有意な2酸化炭素排出量削減を達成可能である原子力エネルギーの積極的活用シナリオ(2050年の設備容量1160GW想定シナリオ等)も検討していくべき。
- 既存原子力発電所の長期運用、現行の第3世代原子力システムの新設・増設、SMRのような革新的次世代炉の導入(本質的には中型・大型含む)を実施することで、累計87Gtの2酸化炭素排出量を削減可能である(2050年の設備容量を1160GW程度と予測したシナリオ)。これは、1.5℃シナリオの達成を実現化するために、有意な貢献であり、価値のある目標と言える。また、産業用熱源/水素源としての原子力エネルギーの活用が進めば、さらに炭素排出量の削減は進み、初期の分析であるが、3~4割の削減量の拡大が見込まれている。
Shannon Bragg-Sitton(GIF NEaNH-TF, INL)さんは、講演の中で、米国の描く未来のクリーンエネルギーシステムを米国でのケーススタディプロジェクト(原子力エネルギーを用いた水素製造等)を交え、紹介するとともに、統合シミュレーションやシステムの開発状況を紹介くださいました。また、GIFの非電力利用に関するタスクフォース(GIF NEaNH-TF)の趣旨と狙いを紹介してくださいました。
- 現在、世界の国及び企業において、キロワット規模の原子炉システムから数百メガワットの小型原子炉モジュール炉、さらには大型原子炉システムまで、さまざまな規模/種類の原子炉が開発されている。これは、エネルギー貯蔵技術を中心とする統合エネルギーシステム(グリッド)を完成させ、安全で信頼性の高いエネルギー利用を行うことを念頭に置くと、グリッドに接続するエネルギー供給システムに求められる要求が自由度を増しているからと考えられる(グリッド全体を通して、機能を満たすため、必ずしも単体としては、大型でなくても、各システムが固有にもつ特徴/優位性を発揮しうる可能性がある)。
- その自由度の最たる例は、生じる原子力エネルギーを電気エネルギーとして利用するか、熱エネルギーとして利用するか、それとも水素のような中間媒体を通じ利用するかという点にある。米国では、特に、電力価格の変動に合わせ、電力供給と水素製造を切り替えるシステムのケーススタディ(経済性評価)が終了し、今後数年以内に~150kWeのレベルで実証プロジェクトが実施される(LTE及びHTSE)。
- 米国は、今後、キロワット規模での試験実証(電気加熱式や溶融塩冷却方式など)や、メガワット規模での商業実証(75MWeぺブルベッド式高温ガス炉、炉心345MWe+蓄熱150MWeナトリウム冷却式高速炉など)を行うほか、モジュール炉の市場導入(77MWe×12 PWR-SMR)を行い、小規模での原理実証から中大規模商業化、エネルギー貯蔵システムをもつ原子力システムの実証、モジュール化の実証と全方位的な開発/実証を行い、統合エネルギーシステムの完成、それに接続される原子力エネルギー技術の確立/利用を目指している。
- GIFの原子力エネルギーの非電力利用TF(NEaNH-TF)は、電力以外の形でのエネルギー活用技術を、技術レベル(TRL)、開発時期、対象市場/国の違いによる導入に関する制約/経緯/条件(geographical conditions)、経済性などに着目し、レビューすることを目的とするタスクフォースである。対象市場/国の違いによる導入に関する制約/経緯/条件の差は大きく、そのため、各国それぞれ異なるオプションを取りえる。そのため、米国が前半の紹介で示したような国別のアプローチを集約し、地理的条件毎の最適解(regionally optimal)を見つけることを目的としている。
講演後のディスカッションでは、初期投資コストを抑えるために、小型化することはあっても、水素を製造するために、エネルギー供給側を小型化するモチベーションは少ないと思うなどの問題提起から始まり、小型化することによりエネルギー消費地へ距離的に近づける可能性があること、全体の需要量を考えると、大型炉と適合するギガワットスケールでの水素製造技術の開発は、いずれにせよ必要なこと、最終的には、開発した技術をだれが市場投入していくかにより、複数のスケールの技術が混在するであろうことなどが意見提示されました。特に米国サイドからは、熱や水素の貯蔵により発送電分離可能になることのメリットと時間的な電力価格の変動が強調され、技術の選択は、技術の優位性に依存するのではなく、既に経済性による選択になりつつあることが主張されました。
ウェビナーを振り返って
本合同ウェビナーは、1年前のGIF-IAEAインターフェース会合におけるGIFとIAEA間の共同アクションの設定に始まり実現化したウェビナーであり、その後、米国、NEA及びGIFの教育訓練WGの関係者によって、内容が深められたものです。単一のテーマ設定に基づき、3者がそれぞれ得意な分野、個別の見解を持ち寄ることにより、全体像が見え始め、また、確実な部分、不確実な部分もそれぞれ見えてきたのだと思います。ここにさらに、日本の立場を付け加えると、どうなるでしょうか?個人的には、以下のようになると思いますが、これに関しては、各々それぞれ意見があるところかと思います。本テーマに関し、ご意見などございましたら、GIF日本秘書団までご連絡ください。
- 低炭素電力による電力部門の脱炭素化と、それを前提とした他のセクターでの電化の流れは、不可逆的な流れであり、一部遅延することはあっても、確実により多くの人に支持されはじめてきていると考えられる。本来、教育レベル、技術レベルの高い日本としては、客観的事実、予測される効果に基づき、将来を選択する政策を立案していくべきであり、低炭素エネルギー源をいかに確保していくべきか、原子力エネルギー利用の未来像について、議論が深まることが期待される。
- 技術導入において、これまでの開発経緯、市場の地理的特性の影響は、大きい。それは、開発国各国共通して感じていることであり、それを踏まえつつ、将来的に確保しておく必要のある技術を選定し、育成、実証していくことが重要。
(GIF EG委員 川崎)