GIF インタビュー:第4世代炉の実用化に向けて

Allan Carson of WNA interviews Gilles Rodriguez,
Technical Director of Generation IV International Forum (GIF).

GIFのテクニカルディレクター、ジル・ロドリゲスが、GIFの活動(GIFの活動対象、実用化に必要な要件/課題/アプローチ)に関するインタビューを受けました。

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アラン:
皆さんこんにちは。アラン・カーソンです。世界原子力協会のイノベーションビデオシリーズ最新回へようこそ。このシリーズでは、原子力の技術革新の促進についてと、新しい技術がどうすれば早く市場に参入できるかをテーマに、産業界のリーダーにお話しを伺っています。今後数年で行われる先進的小型炉(SMR)の実証が、原子力業界のすばらしい変化の始まりとなるでしょう。しかし、革新は技術だけを考えれば良いというわけではありません。原子力エネルギーのフル活用を妨げている全てのもの、例えば規制、予算、コミュニケーション等も革新には深く関わっています。これについて本日は、第4世代原子力システムに関する国際フォーラム(GIF)の技術ディレクターであるジル・ロドリゲス氏をお迎えしてお話しを伺います。ジル、本日はお忙しい中ありがとうございます。よろしくお願いいたします。

ジル:
今日はこのような新しい形の意見交換の場にお招き頂きありがとうございます。2019年から、GIFで技術ディレクターをしております、フランス原子力・代替エネルギー庁(CEA)のジル・ロドリゲスです。GIFでは、次世代原子炉の6つのシステムについて研究を進めています。私はこれまでのキャリアで、ナトリウム冷却高速炉(SFR)を含む第4世代原子炉を専門に、設計、運転、廃炉に携わってきました。SFR、ガス冷却高速炉、鉛冷却高速炉(LFR)などの経験もありますし、水素の大規模製造に原子力の熱を利用する研究も行ってきました。この原子力の熱利用は、第4世代炉の将来の革新的プロセスとして考えられています。2019年から第4世代炉の研究活発化に向けて、これは非常に面白くもあり難しいチャレンジではありますが、将来に向けてこの6システムの研究開発を推進しています。

アラン:
様々な研究に携わっていらして、非常に面白い経歴をお持ちですね。さて、まずはGIFでの技術ディレクターの役割から伺ってみたいと思います。次世代原子炉の技術開発を支える最前線にいらっしゃいますが、現在研究が進んでいる技術革新についてもう少し詳しいお話しをお聞かせください。また、技術革新がもたらす効果についてもお願いします。

ジル:
GIFでは、第4世代として重要な6つの原子炉システムの開発を平行して進めています。加圧水型原子炉は、私は第3世代原子炉と考えておりますが、一方、SFR、LFR、溶融塩炉、ガス冷却高速炉、超臨界水冷却炉と、超高温原子炉を第4世代原子炉と呼んでいます。この6システムの開発を同時に進めています。新しい技術も開発中です。この6つのうちSFRと超高温原子炉は、既に運転中の原子炉もありますので、特に開発が進んでいます。その他4システムは非常に難しい技術ではありますが、それらの技術や概念自体が非常に革新的なものです。溶融塩炉は実は1950年代に研究されていましたが、小型のものでした。我々は大型化したいと考えており、その技術が難しいのです。技術成熟度が高いSFRや超高温原子炉であっても、さらなる安全性、効率の向上、コスト削減、つまり利益の向上等を目指して研究開発を進めています。ですから、各システムの技術成熟度と目標を考慮して、技術ロードマップを作成しています。平行して研究を進めていますが、それぞれのシステム開発が独立して、お互いのシステムに関与することなく研究を進めるよりも、分野横断的に研究開発に取り組むべきと考えまして、分野横断的なワーキンググループ又はタスクフォース(TF)も立ち上げました。そこではお互い共通する、例えば安全性、経済性、安全設計クライテリア、安全設計基準、核拡散抵抗性・核物質防護等の課題を共有しています。その中で、技術革新のためのTFが2つあります。1つ目は革新的製造・材料TFです。例えば材料や建設に関して研究が進み、新しい建設方法が確立すれば、将来6システム全てに反映できるということです。2つ目は1ヶ月前に立ち上げたばかりですが、原子力熱の非電力利用TFです。というのも、原子力熱は発電だけに留まらず、今後は、エネルギーミックスを脱炭素化するための全てに原子力熱が必要と考えているからです。

アラン:
なるほど。原子力開発が新しい分野、市場を含め、全ての技術分野をまたいで進歩しているようですね。もう一つ聞きたいことがあるのですが、それらシステムの設計が市場に出るために必要な革新で、技術以外に求められるものは何かありますか?

ジル:
もちろんです。エネルギーミックスを念頭において将来の原子力エネルギーを考えた場合、原子力は柔軟性も備えているべきなのです。「柔軟性」は一見、技術分野ではなさそうですが、でもこれは後に技術的なものに解釈されることになります。つまり、原子炉の柔軟性というのは、例えば再生可能エネルギーと原子力をうまく組み合わせてどのように電力網に乗せるかを考える時に重要となります。2030年代、2040年代には、再生可能エネルギーの利用率はどんどん増えていき、重要性も増すでしょう。そこで原子力エネルギーの柔軟性を使って、そこに上手く調節して合わせて行かなければなりません。もう一つは、原子炉の寿命延長です。これはもちろん経済性に関連します。原子炉寿命を10年延ばせば、その分利益率も上がります。原子炉寿命の延長は技術的に判断にしなければなりませんがね。もう一つ重要なことは、規制機関と足並みを揃えていくこと、そして私たちの技術を承認してもらうことです。ですから規格基準の策定にも取り組んでいます。また、知識の伝承も技術革新を成し遂げていく上で重要と考えます。原子炉の建設には、約10年という長い時間が必要です。運転に60年、廃炉に10年~20年というのが理想です。この期間というのは、人1人が働く年数よりも長いですね。ですから、知識も伝承していかなければなりません。長いスパンで考えて、若い世代へ知識を伝承し、新しい技術を作っていく。原子炉が稼働する初日から、廃炉が完了する最後の日まで、同じ人がずっと働き続けることはできないのですから。

アラン:
確かにその通りですね。技術的課題、非技術的課題に関して少し触れましたが、その6つの原子炉型の展開を促進し、市場に早く出すのに最も重要な課題を一つ挙げるとすると、何だと思いますか?

ジル:
技術革新と時間に関する質問ですね。面白い質問だと思います。技術開発を早く進めるということに対しては、原子炉と時間の関係性は難しいものがあります。私がGIFに参加した当時、GIFで何を開発したいのか、私の考えをプレゼンしたのですが、そこで私は、「我々の最初の敵は、時間である」と述べました。なぜなら時間はとても早く過ぎていくし、変化も早いからです。先ほど申し上げましたように、原子炉は長い時間単位で考えなければなりません。さらに、開発の時間を止めることができる機関もあります。規制者、安全機関などです。そして時間を止めるだけでなく、彼らによって原子炉開発者は様々な難しい状況に立たされます。私は、開発者と時間との関係が、原子力開発におけるメインの課題だと思っています。気候変動のことを議論するとき、スピードが重視されますが、時間を目の前にしてどのように立ち回っていくかが重要だと思います。これを哲学に例えて説明したいと思います。ギリシャ神話では、時間の神が3人います。クロノス、カイロス、アイオーンです。クロノスは物理的時間の神で、年、日、分、秒、で計れる時間のことです。我々が「時間」と呼ぶのはこのクロノスのことで、マネジメントやロードマップの作成、スケジュールを組んだりする場合に間に合うようにするのがこの時間です。カイロスは、「タイミング/チャンス」です。今、我々はカイロスを捕らえなくてはなりません。ふさわしい場所で、チャンスをつかみ、技術革新を行わなければならないということです。重要なアイデアを今すぐに考えつかなければならない、なぜならこれが「一番良いタイミング」ということになるからです。技術革新を行う時、市場動向を見る時、技術がどのように進化するかを考える時、または、例えばSMRを原子力熱の非電気活用にのみの利用に転換するなど我々のビジョンを変える時には、カイロスが非常に重要になります。20年前でしたらカイロスは議論には出なかったでしょうね。カイロスが必要な時代ではなかったですから。今はカイロスが非常に重要な意味を持ちます。ですから我々は、原子力熱の非電気利用と合わせてSMRのためにも、カイロスを捕まえなければなりません。変化を起こすときに考えなければならない重要な時間の神のもう1人が、アイオーンです。アイオーンは知識の資本化及び知識マネジメントです。アイオーンを無視すると、既存の技術があることに気付かずに同じものを再発明することになります。しかし、これは発明とは呼びません。時間に逆らう必要はありませんが、このクロノス、カイロス、アイオーンの3人の時間の神と共に動くことが必要です。技術革新を行う際には常に頭の中に入れておくことが重要です。ロードマップのスケジュールを確認する。チャンスをつかむ。これまでにしてきたことを忘れずにいることも重要です。

アラン:
非常に興味深いですね。とても面白い考え方だと思います。今日この対談でギリシャ神話についてお話が伺えるとは思ってもみませんでした。研究やプロジェクトの時期を、異なる時間のコンセプトでリンクさせるのは面白いと思いました。非常に良い考えだと思います。もう少し詳しく伺いたいところではありますが、残念ながら今日は時間が限られていますので。

ジル:
哲学の話を何時間もしたいところですが、残念です。今日の話題とは少しずれますしね。

アラン:
大丈夫ですよ。すばらしいアイデアだと思いました。時間の概念については面白いと思いますし、覚えておきたいと思います。また本日は、技術革新に対する2つのアプローチについても伺いたいのですが、一つはロシアや中国で見られる、国に基づいた(state-based)アプローチで、もう一つはアメリカやカナダで見られるスタートアップ官民パートナーシップ(startup public-private partnership)です。ジルからみて、この2つのアプローチのうちどちらが早く新しい設計を市場に出すのにふさわしいと思いますか?

ジル:
それは難しい質問ですね。13以上の国から組織される機関の代表として来ていますから、どちらとは言い難いです。理由としては、一つ目は本当に分からないということ。それに、どちらが良いというのが私の仕事ではありません。ですが、他のものに例えて少し説明させて頂きますね。私の考えはこうです。開発国は一つのレースに参加しています。100メートルのレースとしましょう。それぞれが同じライン上にいるわけでも、道がまっすぐなわけでもありません。この中で一番先にゴールした者が勝者です。ヨットレースと考えてください。ある地点から別の地点に向かってレースをしますが、コースは決まっていません。国によって外的な要素も、制約も、政策も、産業に対するアプローチも異なるからです。同じ条件なのは、ヨット上にいることと、天気だけです。ですから、誰が最初にゴールするかをここで言うのは非常に難しいのです。それから誰が一番にゴールするかが目的ではなく、誰がゴールに「安全に」たどりつくかが重要です。我々には、解決策は一つではなく、複数あります。アメリカには政治機関が多くありますが、一方ロシアと中国では、技術開発は国の政治的動きに大きく左右されます。フランスはその中間です。つまり、国が負担する研究開発もあれば、民間が行っているものもあります。ですからこのレースでは、外的制約が伴うヨットレースと考えると良いと思います。誰が勝つか、誰が最初にゴールに着くかは、後になって分かることです。GIFでの我々の仕事は、誰が勝つか負けるかを予想することではなく、ゴールに安全に、かつ確実に到達できるように、開発国にツールを提供することです。新しい技術を考える時に、安全性や核拡散抵抗性・核物質防護に関する白書を提供するなどです。レースでは、GIFは開発国を助けますが、誰が勝つかの予測をするものではありません。

アラン:
ありがとうございます。ヨットレースの例えは、本当にそうだと思いますね。外的要素がゴールまでのルートに影響を与えることを皆に認識させる、良い例だと思います。さて、最後に、もしよろしければ将来を占っていただきたいのですが、もし今回我々がしたのと同じ議論を10年後にもう一度するとしたら、原子力技術革新のどのトピックについて話したいですか?もしくはどの分野が最も普及していると思いますか?

ジル:
我々が原子力で行ってきた革新的なシステムは、いくらでも挙げられます。しかしこれら全ての技術は原子力だけではなく、広く科学のためにも開発したものです。これは非常に良いことだと思います。というのは、原子力の中で開発された技術が、世界中で行われているすばらしい研究開発で利用される機会を得るということですから。そうなれば、時間もお金も節約できて、効率が良いと言うことです。これが私たちがしたいことです。もちろん、原子力のためだけの先進的な製造技術もありますが、AIですとか、分野横断的なことも全て考慮します。今は原子炉に使われているシステムの膨大なリストが、10年後には非常に役に立つのではないでしょうか。10年前に戻って考えると、私は10年前、ある原子力技術のプロジェクトリーダーをしていました。非常にすばらしい革新的なシステムではありましたが、それ以上予算が下りず、ストレスを抱えていました。そこにはカイロスはいなかったのです。タイミングが悪かったのでしょう。そのシステム開発は、少なくともフランスでは中断となりました。それともう一つあります。超臨界CO2サイクルの開発も担当していました。とても好きなシステムでしたが、これもフランスでは予算が下りませんでした。他の国では予算が下りて開発が続行されましたが。ですから10年前、国は私が開発しているシステムを理解していない、だから予算が下りないんだというストレスがありました。今、10年経って、私も当時より知識があります。今になって分かることは、魅力的なシステムであることはもちろん、コミュニケーションもうまくとれなければならない、科学の枠の中だけに居ては、理解は得られない、ということです。政策決定者や投資家は科学者ではないし、魅力的なものということをより理解してもらうためには、時間を費やさなければならないのです。それが全てです。10年前、自分のアイデアを育てるためには、もう少しうまく立ち回るべきでした。繰り返しになりますが時間との付き合い方として、将来のために何が重要で、何が人の興味をそそるものかを明確にする必要があります。それと同時に、自分が何を売り込みたいのか、自分の意見を言うためにお金ではなく、そのシステムの魅力をどのようにして売り込むかを明確にするのです。これがカイロスです。「私はこの革新的なシステムを確信しているからこのチャンスを利用しているのです」と。技術革新について考えると、これは難しいことですがね。なぜなら最初は予算が非常に少ないところから始まります。後に、開発をさらに進めるために多くの予算が必要になる。その「傾斜」が大きくなった時、投資家に投資してもらうためには、そのシステムに自信を持っていなければならないのです。常にそのことを頭に置いておかなければなりません。技術革新と科学は重要ですが、自分が開発しているものが未来のための最良な解決策であることを、他者に確信させなければ開発は進みません。

アラン:
すばらしいですね。もう一つ面白い考えをお話し頂きありがとうございました。ジルがカイロスをうまく利用しようと最前線に立っておられて非常に嬉しく思います。それらの技術が1日も早く市場に出回ることを願っています。本日は非常に興味深いお話しを伺えました。ご試聴の皆さんも楽しんで頂ければ幸いです。たまにはギリシャ神話について語るのも面白いものですね。

ジル:
ありがとうございます。最後にもう一つだけ良いでしょうか。2年前でしたら、こんなに哲学や例え話をすることは無かったのではないかと思います。新型コロナウイルスにより私たちの生活が一変し、時間との付き合い方もだいぶ変わったと思います。ほとんどの人は一日中家にこもり、毎日がほとんど同じ。時間との付き合い方が複雑になりました。早急なワクチン開発もそうです。全てが変わりました。ですから私にとっては、哲学を考えることで、今日、何をしているか立ち戻って考えることが必要になったのです。コロナによってたまにそれが見えなくなるからです。それで今回、少し哲学的な話をさせて頂きました。今日私たちがしていることの全ては、今この時間のためにある。私たちは何でも今すぐに欲しいと思ってしまいます。何でもすぐに手に入る。Amazonでの買い物も、データアップロードをすればデータの授受も、何でもあっという間です。ワクチンが今すぐに必要だ。私たちは今この時間だけを考える時代に生きています。でもこれでは、困難な状況を乗り越えていけません。「時間」を総合的に考える必要があるからです。今この時間というのは、ストレスや心配をもたらします。だから少しリラックスして物事をとらえる必要があります。そうでなければ、おかしくなってしまいますから。だからストレスや心配事がある時には、この3人の神を思い出してみてください。クロノス、カイロス、アイオーンです。そしてあなたの置かれている状況を、時間と共にあるべき位置に戻してみてください。プロジェクトマネジメントを考える時は、クロノス。チャンス・タイミングを考える時は、カイロス。知識マネジメントにはアイオーン。それで少しリラックスしてください。そうすれば、将来や技術革新のことが見えてくると思います。

アラン:
ありがとうございました。私も週末は少し時間のことを考えてみようかと思います。さて、この動画を楽しんで頂けましたら、原子力技術革新についてコメント頂けると幸いです。世界原子力協会のソーシャルメディア上には沢山の動画がありますので、そちらのチェックもよろしくお願い致します。今日の動画はこのリンク(www.worldnuclearforum.com)からご利用頂けます。6/23に開催されるe-forumについての情報もあり、このトピックスに関してより詳細な議論が行われる予定です。本日はご試聴頂きどうもありがとうございました。